一日中家の中にいる人は別として、一旦外に出れば家に戻るというわけで、誰もが毎日2回は開け閉めする玄関ドア、ほとんど例外なく(ちょっと矛盾した言い方ですが)外開きというのはあまり気づかれていない事かと思う。建築家によっては、ちょっとしゃれてフロアヒンジによる180度開きなどという玄関扉もあるが、内開きというのはまずもってお目にかからないのは一体なぜだろうか。
最もよく言われているのは、狭い玄関に内開きのドアでは邪魔になって仕方がないというもの、さらに、雨仕舞の点、床の水勾配の点などなど、いずれも内開きなんて考えられないとでも言いたげな外開き当然説。ところが先だって、大正後期の建築になるある住宅を見学した際のこと、なんとこの住宅の玄関扉は見事に内開きであった(写真左は外観、右が内観、少しわかりにくいが内側に開いています)。この玄関はそれほど深い軒下空間があるわけではなく、ということは充分雨掛かりの心配があり、さらに、玄関スペースも現代の戸建て住宅と変わらない広さであるにもかかわらず内開き、というのは一体どうしてであろうか。
良いことなしの内開き玄関扉にもなにか良い点があるとすれば、それは人を招き入れるという所作の自然さ、つまりは美しさということである。「いらっしゃい」と言われながらドアが向かってくるのでは、なんだか出て
いけと言われているような気がしないわけでもないが、それと反対に進む方向にドアが開けば、一連の動作がスムーズであることは言うまでもない。つまり、大正期に建てられたこの住宅は玄関スペース内の窮屈さや雨仕舞といった機能的な点よりも、招き入れる所作の自然さを優先したのだと言える。
自分の設計する住宅の玄関扉は必ず内開きにしたという宮脇檀は、「内開きにすればお客様が気持ちよく入れますなどという、数字の上では何の評価の対象にもならない部分など切って捨ててしまおう」という考えには断固反対すると強い口調で述べている。
ではいつごろから玄関扉は内開きから外開きになったのか?それはまた次回。
(2012/06/28)
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